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熊本地方裁判所 平成6年(ワ)1012号 判決 1998年7月06日

原告(被参加人)

髙岡由里

右訴訟代理人弁護士

加藤修

被告(被参加人)

大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

小坂伊佐夫

右訴訟代理人弁護士

山之内秀一

寺澤弘

参加人

熊本県信用組合

右代表者代表理事

森弘昭

右訴訟代理人弁護士

村山光信

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  参加人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち被告に生じた費用の三分の二と原告に生じた費用は原告の負担とし、その余は参加人の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  原告(被参加人。以下単に「原告」という。)の請求

被告(被参加人。以下単に「被告」という。)は、原告に対し、金六五〇〇万円及びこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  参加人の請求

1  原告と参加人との間において、別紙物件目録記載の建物につき原被告間で平成三年九月一六日に締結された保険契約に基づく保険金請求権のうち金二二七七万一五〇〇円は参加人が有することを確認する。

2  被告は、参加人に対し、金二二七七万一五〇〇円及びこれに対する平成六年八月五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、保険事故が発生したとして、店舗総合保険契約に基く火災保険金の支払を求めていたところ、右保険金請求権の一部につき差押命令を得た参加人が、独立当事者参加し、被告に対し、差押債権の支払を求めるとともに、原告との間で当該債権が参加人に帰属することの確認を求めた事案である。

二  争いのない事実等(証拠上容易に認められる事実については、末尾括弧内に証拠を掲記)

1  保険契約の締結

原告は、平成三年九月一六日、損害保険を業とする被告との間で、次の約定による店舗総合保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。

(一) 保険期間 平成三年九月一六日午後四時から同四年九月一六日午後四時まで

(二) 被保険者 原告

(三) 保険の目的 別紙物件目録記載の建物及び什器・備品

(四) 保険金額 建物につき五〇〇〇万円、什器・備品につき一五〇〇万円

(五) 保険金の支払

被告は、火災事故によって保険の目的について生じた損害に対して、保険契約者又は被保険者が損害発生の場合の手続(右損害発生を被告に遅滞なく通知し、かつ、損害見積書に被告の要求するその他の書類を添えて、右通知から三〇日以内に被告に提出すること)をした日から三〇日以内に、保険金を支払う(乙一・店舗総合保険普通保険約款(以下「本件約款」という。)一条一項一号、二六条一項、三一条)。

(六) 本件約款の内容

(保険契約の無効)

他人のために保険契約を締結する場合において、保険契約者(原告)が、その旨を保険契約申込書に明記しなかったとき、保険契約は無効となる(一九条一項)。

(故意・重過失の事故招致)

被告は、保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときは、その理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない(二条一項一号)。

(不実の申告)

被告は、保険契約者又は被保険者が損害発生の場合の前記手続(二六条一項)において、正当な理由がないのに、右提出書類につき不実の表示をしたときは、保険金を支払わない(同条四項)。

2  火災の発生

本件保険契約の目的である建物(以下「本件建物」という。)は、平成四年六月二八日にその内部から発生した火災(以下「本件火災」という。)により、その中に在置されていた什器・備品とともに損害を被った。

3  原告の保険金請求

原告は、平成四年七月七日、被告から、必要書類提出の依頼を受け(乙三三)、さらに、同月下旬、損害明細一覧表用紙を渡され、同年八月中旬作成した損害明細書を被告に送付したが、被害の什器備品の詳細が記載されていなかったため、再提出を促され(乙三一)、同年九月一五日付けで最終的な損害明細書(乙四)を作成し、同年一〇月七日、これを被告に提出した(甲五)。

4  参加人は、平成六年七月一日、熊本地方裁判所宮地支部平成六年(ナ)第二号債権差押命令申立事件において、原告に対する平成四年五月二五日付け金銭消費貸借契約(手形貸付)による貸付金一九〇〇万円及び損害金三七七万一五〇〇円の弁済に充てるため、平成三年四月一六日設定の本件建物に対する根抵当権(極度額・二五〇〇万円、被担保債権の範囲・信用組合取引、手形債権、小切手債権)に基づき、本件保険契約に基づく保険金請求権の内金二二七七万一五〇〇円を差し押さえるとの内容の債権差押命令を得たものであり、同差押命令は、平成六年七月五日、第三債務者である被告に、同月二八日、債務者である原告に、それぞれ送達された(被告との関係で、丙一ないし三)。

二  争点

1  本件建物は原告の所有か。

(原告の主張)

原告と髙岡達英(以下「達英」という。)とは、昭和六二年頃から内縁関係にあり、本件建物については、達英と当時その内妻であった原告とで原告所有とすることの合意があった。なお、本件建物は、原告名義で保存登記がなされている。

(被告の主張)

本件建物は、もともと会員制の分譲別荘とするために建築が計画された。その計画の中心人物は、現在原告の夫となっている達英である。本件建物の敷地を実質的に確保したのも達英であるし、建築資金の大部分を調達したのも達英であり、自ら設計の依頼をし、建築工事の一部を施行しているのであるから、本件保険契約時の本件建物の所有権者は達英である。したがって、本件保険契約は、原告が達英のために締結したことになり、被告は、その旨を保険契約申込書に明記していないので、本件保険契約は無効である(本件約款一九条一項)。

2  本件火災は、「偶然」の保険事故といえるか。

(被告の主張)

商法六二九条にも定められているとおり、損害保険契約は「偶然ナル一定ノ事故」によって生じた損害を填補することを目的としたものであり、原告は、まずこの点を主張立証すべきである。

3  本件火災は原告らによる故意の事故招致か。

(被告の主張)

(一) 本件火災は、原告及び達英が話し合って招致したものであるから、本件約款二条一項一号にいう故意の事故招致に該当し、被告には保険金支払義務はない。本件火災が原告らの故意招致であることを根拠づけるものとして、次のような事情が存する。

(二) 本件火災の出火場所は、炭化の激しさ及び第一発見者の供述から判断して本件建物二階二〇五号室又はその直下一階厨房の床面より上の部分である。しかし、二〇五号室のテレビが最も炭化している様子はなく、また、二〇五号室と一階厨房との間に漏電すべき電気機器ないし電気配線があった様子もなく、ブレーカーがオンの状態であることや開閉器のヒューズが切れていないこと等から推測すると、電気関係が本件火災の原因であるとは考えられず、また、タバコの不始末によるとも考えられない。消防機関も、立証事実や資料がないので断定はしていないが、放火を原因と考えている。

(三) 本件火災後に撮影された写真によると、火災報知器の交流電源のメーターは零を示しているが、本件建物の火災報知器は、地区音響を停止状態にした場合でも作動し、予備電池がある限り一〇分間は発信音が鳴り続ける。しかし、本件火災時に第一発見者は、火災報知器の音を全く聞いていない。これらのことから、甲種防火管理講習を受けた防火管理者である原告が火災報知器を鳴らないように工作したことが推測される。

(四) 原告と達英とは、本件火災の発生する前日に急遽友人を誘って旅行に出かけ、原告らが本件建物を離れてから約一三時間後に本件火災は発生した。原告が友人を旅行に誘った理由については、達英は、その友人らから増改築工事や新築工事を請け負うことになったお礼のためであると説明するが、友人らはそのような事実はないと言っている。しかも、当時、原告と達英とは多額の借金に負われて生活が苦しかったにもかかわらず、友人らの旅行の費用を全部負担している。これらのことは、原告と達英とが本件火災時にどうしてもアリバイが必要だったことを意味している。また、達英は旅行後も本件建物にすぐ戻らず、一の宮警察署が所在を捜しているのを知りながら連絡もしていない。

(五) 原告は、犬を飼っていたが、本件火災の第一発見者は犬の鳴き声を全く聞いておらず、本件建物の近所では、本件火災当日に限って犬がいなかったということがうわさになっていることから、本件火災時に原告が犬を現場から隔離していたことが推測される。

(六) 本件火災時には、第一発見者が、本件火災現場で不審な人物から、「建物内に誰もおらん。火をつけて出ていっちゃが。」と話しかけられており、その人物は、達英が雇っていた男と年齢、風貌が似ている。原告及び達英は、雇っていた男の素性を隠し、その男の素性が保険調査会社の調査によって判明した後も、その男を庇い立てした。これは、原告及び達英がこの人物に放火を依頼したことを推測させる。

(七) 本件建物は、旅館であったが、その経営状態は苦しく、本件火災より大分前から客足が遠のいていたうえ、原告及び達英には多額の借金があったので、保険金を得るために故意による火災を招致する動機はある。また、原告や達英は虚言が多く、人間性に問題がある。

(原告の主張)

原告と達英とは、本件建物を建築し、一億円以上も費やしてきたので本件建物に愛着を持っていたから、旅館業が営業不振にもかかわらずこれを売却しようともしなかった。原告らが本件火災の前日に旅行に出かけたのは、温泉ポンプの電気関係に故障があったためである。したがって、本件火災は、原告の故意又は重過失による火災ではない。

4  本件火災は原告らによる重過失の事故招致か。

(被告の主張)

仮に、右3の主張が認められないとしても、原告は、火災報知器を切り、飼い犬を現場から隔離し、勝手口の戸締まりをせずに旅行に出かけたので、原告の重過失による火災として被告は本件約款二条一項一号により保険金の支払義務がない。

5  原告に損害明細書への故意による不実表示があるか。

(被告の主張)

原告が被告に提出した損害明細書中の次の表示は故意による不実記載である。

(一) 電化ハウス(有)ロイから購入したとされている電気製品、合計一四欄、合計金二二五万三〇〇〇円の表示

(二) ビッグウェイ(未来建設(株))から購入したとされている流し台、食器欄等、合計七欄、合計金額五三万円の表示

(三) (株)マルニシから購入したとされている

(1) テレビ、コタツ等、熊本市南熊本分合計一八欄、合計金額二三三万三〇〇〇円の表示

(2) テレビ、コタツ等、熊本市長嶺町分合計一三欄、合計金額五二万四〇〇〇円の表示

(3) 懐石用お膳、熊本市蓮台寺分一欄金一九万五〇〇〇円の表示

(四) クローバー商事こと本田禎孚から購入したとされる布団二七組、一欄、金五九万四〇〇〇円の表示

(五) (有)つくも電設工業から購入したとされる電話機等合計一五欄、合計金四二八万円の表示

(六) (合)古木常七商店から購入したとされる流し台、一欄、金三万円の表示

(原告の主張)

原告は、本件火災によって資料が焼失し、建築から三年が経過したため資料が散逸していることから、記憶を辿って損害明細書に記載し被告に提出した。したがって、記載と実際とに食い違いがあるとしても故意によって虚偽の申告をしたことにはならない。

6  相殺(予備的主張)

(被告の主張)

(一) 被告は、原告に対し、平成三年一〇月三一日、原告の請求に基づき、本件保険契約の保険金として、同年九月二七日発生した台風による本件建物の被災に対し、一一五七万七〇四五円を支払った。

(二) しかし、右台風により被災したのは、本件建物とは別棟の炉端焼建物であり、これは保険の目的外の物件であったから、原告には右保険金の支払を請求する権利がなかった。

(三) 原告は、右請求の際、台風に被災したのが本件保険契約によって填補されない炉端焼建物であったことを知っていたので、被告に保険金を請求し、その支払を受けたことは不法行為となる。

(四) 仮に、原告において、炉端焼建物の被災も本件保険契約上填補されると誤解していたとしても、右保険金支払は原告の不当利得となる。

(五) 被告は、原告に対し、平成九年四月二一日の本件口頭弁論期日において、右不法行為による損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権をもって、原告の本訴請求債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

(原告の主張)

本件保険契約締結時、炉端焼建物は既に増築されており、本件建物と一体のものになっていたので、本件保険契約は炉端焼部分も保険の目的としている。

第三  判断

一  前記争いのない事実等に証拠(甲一、三、四、八、一〇、一五、一七の1、2、二三の9、二四、乙二ないし六(枝番を含む。以下同じ。)、九ないし二一、三一ないし三四、証人髙岡達英、同日高敏文、同石村泉、原告本人(第一、二回)を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件火災に至る事情について   (一) 達英は、経営していた株式会社高岡建設(以下「高岡建設」という。)が倒産するなどして、昭和六一年六月ころ、自ら認めるだけでも二〇億円くらいの負債を抱えていた。

昭和六三年頃、達英は、自ら資金を調達して阿蘇郡阿蘇町大字三久保字前田所在二八六番の土地(以下「本件土地」という。)を取得し、同地に会員制の別荘を建築して分譲口数三〇口、一口二〇〇万円でこれを分譲する計画を立て、自ら本件土地を整地し、同年六月には、本件土地周辺の土地を右別荘への進入道路目的で賃借するなど、別荘建築の準備を進めたが、本件土地取得については、多額の負債を有していたため、債権者からの強制執行をおそれて宮中叶(以下「宮中」という。)に名義を貸してほしいと執拗に頼み、同年九月六日、本件土地の登記名義を宮中のものとした。

(二) 達英は、株式会社平和設計に設計を依頼し、達英が主体となり、一部の工事を外注する形で本件建物の建築工事に着手したが、平成元年九月から一〇月にかけて宮中を含む五名から各二〇〇万円の出資を受けたものの、出資者が思うように集まらなかったため、資金の調達に苦慮し、会員制の別荘としての分譲をあきらめ、平成元年一二月一一日、用途を変更して旅館として本件建物の建築確認を受け、同月一五日、当時達英の内縁の妻であった原告が旅館営業の許可を受けて、達英と原告とが協力して本件建物を旅館「白雲別荘」として経営することにした。ただ、本件建物での旅館業は、地理的に不便なこともあって、必ずしも順調ではなく、集客力を増すために、平成二年四月末には炉端焼のできる増築棟を建築し、更に資金が必要となった。

(三) このように、当初は、本件建物を会員制の分譲別荘とするということで出資金を集めたのに、原告と達英とが本件建物において旅館経営をすることになったため、達英は、出資者から、再三にわたって出資金の返還を迫られたが、本件建物での旅館業が順調でないこともあって、平成三年までに、出資金の半額しか返済しなかった。また、本件建物の建築に当たっての設計料や一部業者に対する代金の未払は現在に及んでいるし、固定資産税や不動産取得税も平成三年から支払われていない。

(四) ところで、達英は、宮中に対し、出資金を返すからと言って、平成二年一一月八日、本件土地の登記名義を原告に移転させ、本件建物については、四月二七日、原告名義に所有権保存登記がされた。

そして、平成三年四月一六日、今度は、本件建物近くにログハウス七棟を建築分譲するとして、原告が、本件土地建物に参加人を根抵当権者とする極度額二五〇〇万円の根抵当権を設定し、二〇〇〇万円を参加人から借り入れた。しかし、平成四年六月二八日の本件火災までにログハウスは一棟しか建築されなかった。

(五) 平成四年五月ころ、「白雲別荘」は、極度の経営不振に陥っており、原告及び達英は、これを売却しようとも考えたが、夫婦で必死に建てたのでどうしても売れないと思い、借り主を探すことになった。平成四年六月中旬ころ、「白雲別荘」を賃借してもよいと思っていた吉田信子が、同別荘に下見に行ったところ、各部屋には蜘蛛の巣が張り、布団なども湿気がきている状態だったが、周辺環境が良く、原告から家賃二〇万円と言われたので、格安であることから、借りることにした。吉田信子は、再度「白雲別荘」に行き、同年七月一日に掃除に行くことを原告に告げ、その了承を得た。

(六) このころ、原告と達英とは、その生活用品を本件建物から一棟だけ完成していたログハウスに移し、転居した。しかし、ログハウスは、トイレも水道も使えない状態だった。

(七) 平成四年六月二七日、原告は、急遽天草の旅館に電話して、キャンセルになった部屋を予約し、達英が、友人の清水藤雄(以下「清水」という。)夫妻及び堤イチ子(以下「堤」という。)夫妻に、天草旅行に行くから準備しておくようにと電話した。清水はまだ寝ていたがその妻から起こされ、急いで準備をし、堤は、あまりにも突然であり、その日には別の用があったので誘いを辞そうとしたが、達英から、用事を済ませた後でもよいからと言われ、当時熊本市内の医院に入院中の夫に外泊許可を取らせ、天草旅行に応じた。

(八) 原告と達英とは、同日、昼ころ天草旅行のため本件建物を出発し、それから約一三時間経過した翌二八日午前一時少し前に本件建物から出火した。

2  本件火災の状況

(一) 本件火災の出火場所は、本件建物二階二〇五号室又はその直下の一階厨房の床面より上の部分でタバコの不始末は考えられず、漏電である可能性も乏しく、放火の可能性が最も強い。

(二) 本件火災当時、本件建物に設置してある火災報知器が作動した形跡はないし、原告が本件建物付近で飼っていた犬も当時は本件建物付近にはいなかった。

3  本件火災後の原告の言動について

(一) 原告と達英は、本件火災発生当時、清水夫妻及び堤夫妻と天草旅行をしていたが、その旅行費用は、原告が清水夫妻や堤夫妻の分まで支払った。

(二) 宮中は、平成四年六月二九日、新聞報道により本件建物が火災にあったことを知った。ところで、宮中は、出資金の未返還分を催促するために、同年五月ころ原告に電話したとき、原告が、毎日借金取りが来ては厳しい催告があり、中にはやくざのような人物が外で達英の帰りを見張っていると泣きながら言っていたので、そんな厳しい状況にありながらどうして天草旅行に行ったのかと思い、尋ねると、原告は、達英と喧嘩したので仲直りの意味で旅行したと説明した。

(三) 一方、達英は、天草旅行に行ったのは、清水や堤から住宅建築の依頼を受けたので、そのお礼のための招待であると説明している。それによると、平成四年四月に堤の自宅新築工事の注文を受け、設計図までできあがっているという。

しかし、清水や堤は、本件火災前に達英へ住宅建築の依頼をしたことはないとこれに反する事実を述べている。そして、本件火災後になって、達英は、堤に対し、家の建築を請け負わせてくれと頼み、中山一級建築事務所の高野幹雄に対して、住宅の平面図を引いてくれと依頼している。

(四) 平成四年七月七日、被告の社員と鑑定人が原告に調査面接した際、原告は、五月の連休は客が一杯だったと述べ、同年七月下旬、保険調査員が原告に損害明細書の用紙を持参したとき、原告は、七月は予約が一杯入っていたので大きな損害ですと述べた。

(五) 本件建物内には、坂本食料品店を経営する坂本文一の煙草販売機が設置されていた。本件火災によってこの販売機も被害を受けたので、坂本は、原告に対し、弁償するように要求した。原告は、販売機に保険をかけていれば、その保険金を請求すればよいと言うので、坂本は、保険には入っていないと言ったところ、原告は、自分の方で保険金を請求する、その際、煙草販売機を坂本から購入したと保険会社に報告するから、販売機は幾らかと聞いた。坂本は、五八万円くらいだと教えた。原告が被告に提出した損害明細書には、被害品目煙草販売機、購入額五八万円、購入先坂本商店、所有者原告とされている(もっとも、その後の原告本人尋問では、原告は、この販売機はリースであると供述している。)。

(六) 原告からの保険金支払請求を受けた被告は、本件火災直後の平成四年七月七日に保険調査員が面接調査したのに始まり、事故調査を継続し、原告に対して損害明細書の提出を求め、その内容についてより詳細な記載を要求し続けるなど、保険金の支払に慎重な姿勢を早い段階から鮮明にしていた。

4  原告が被告に提出した損害明細書(乙四)について

(一) 購入先を「電気のロイ」、購入先住所を熊本市出水二丁目二―三一とする六五万円の冷房機、二五万円の移動カラオケ等の電化製品合計一四欄(合計金額は金二二五万三〇〇〇円となる。)の記載がある。

しかし、電化ハウス(有)ロイ(熊本市出水二丁目二―三一)の営業部長橘市二(以下「橘」という。)は、右記載のうち、原告や達英に売ったものは一点もないことを確認している。

また、橘は、本件火災後、達英に対し、商品を販売したことがあり、それを届けるために原告方に行ったとき、保険会社に提出する損害明細書を作成していた原告から、購入先がわからないので、電気のロイの名前を貸してほしいと言われたため、橘はそのようなことをしてはならないと諫めたことがあった。

(二) 購入先を「ビッグウェイ」、購入先住所を熊本市下南部三一六―三とする流し台、食器棚、ガス台等合計七欄(合計金額は五三万円となる。)の記載がある。

熊本市下南部三一六―三には、ビッグウェイリビングプラザが存在する。ここは、タカラスタンダード株式会社の特約代理店であり、顧客に商品販売した折りには、タカラスタンダード株式会社に発注伝票を送り、同社が運送会社を通じて顧客に商品を配送すると同時に、ビッグウェイリビングプラザの方は、商品を売った先については必ず「お客様カード」を作成し、保存している。ところが、ビッグウェイリビングプラザには原告の旧姓の「今田」、達英の姓である「髙岡」又は「高岡建設」などの名前の顧客カードが存在しない。

(三) 購入先を「クローバー商事」、購入先住所を熊本市子飼とする一欄(金額五九万四〇〇〇円)の記載がある。

しかし、原告が所持している請求書(甲二三の9)によるとその金額は、二二万四〇二五円に過ぎない。

(四) 購入先を「つくも電設」、購入先住所を熊本市画図町下無田ないし同一四三二とする四〇〇万円の電話交換機と二万円の電話機一四台の合計一五欄(合計金額は四二八万円となる。)の記載があり、これは電話関係の設置工事等の費用である。

しかし、本件建物に電話機及び電話交換機を販売設置した有限会社ツクモ電設工業が実際に販売設置した価格は、一四二万円に過ぎない。

また、原告は、電話設備の設置はつくも電設に頼んだ、被告から損害額を出してくれと言われて、以前の控えを見せて別の業者に乙一五の電話関係の損害見積を作成させたと供述している。しかも、その見積によっても合計金額は三四六万二八六〇円でしかない。

(五) なお、購入先を株式会社マルニシとする合計三二欄の記載についても、実際の購入価格を上回るか、実際には購入していないかであり、その一部の代金は未だに払われていない。

二 右認定事実によれば、原告及び達英は、本件火災前に本件建物から荷物をトイレや水道の使えないログハウスに運び出し、本件火災直前には急遽友人を誘って旅行に出かけ、しかも達英の説明した旅行目的が虚偽である等の不審な行動をとっていることはさておき、本件火災当時、相当金に窮しており、過大な申告をする動機があったこと、現実には旅館経営が破綻しているにもかかわらず、旅館経営がうまくいっていたことを装う虚偽の言動があること、被告が原告の損害明細書の記載に重大な関心を持っていることを知り、一部に不実の申告をすべきではないとの注意喚起を受けながらあえて、購入先を偽ったり、何ら商品を購入したことのない相手から購入した商品があるようにしたり、原告の持っていた資料に記載されている内容と異なる記載をしたりしていること、以前の控えを持ちながら、わざわざ別の業者に見積を出させ、かつ、その見積よりも多額の損害を申告していること等が明らかである。

もっとも、原告は、天草に旅行に行ったのは、ポンプが壊れたので風呂、水洗トイレが使えなかったためであるし、手持資料と異なる記載したといっても、記載後に資料が発見されたものであるし、記憶違いの可能性、火災による証拠の散逸を考慮すべきであると弁解し、一部それに副う証拠もあるが、前記認定事実は、(五)を除き単なる記憶違いや証拠の散逸で説明の付くものではなく、右認定事実によれば、原告が虚偽の記載をし、過大な保険金を取得しようとしたものと優に推認することができるので、原告は、本件約款二六条四項にいう損害の「不実の申告」を行ったものということができ、被告には保険金支払義務がないものというべきである。

三  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告及び参加人

の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官有吉一郎 裁判官小田幸生 裁判官金田洋一)

別紙物件目録<省略>

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